香の匂いが昔日の感傷を誘う

何もいわなかった母の後姿が愛おしい

炬燵に座って何も言わず、ただじっと自分を見ていてくれた母の姿。
複雑な家庭環境の中で、3人の実の子供である息子たちが
成人し、社会人となってからは一緒に暮らしたことがない。
父はもうとっくに亡くなり、後妻だった母は先妻の息子夫婦と暮らしていた。
自分が子供の頃、母は5人の義兄妹にかなり気を使っていたことを覚えている。
本音が言える相手がいない暮らしは、いかに肩身が狭かっただろう。
例え実子の自分が一緒に暮らしたとしても、
母は先妻の子供たちへの気遣いで、気が休まることがなかったかもしれない。
それが皮肉にも、自分は意識のない療養中の子供のいなかった、
義長兄夫婦の養子となってしまった。
それが母にとっての望みだったのだろうか。

そして母は実子の息子思い以上に、
先妻の息子の孫まで分け隔てなく思いやりを持ってくれた。
実子の自分や孫には帰省のたび、
近所の孫や親戚の子供たちには盆と暮れの2回、
年金生活の僅かな収入の中から小遣いをあげていた。
近所の方々には家庭菜園で作った花などを
おすそ分けしていたという話も聞く。そんなところが皆から愛されていたのだろう。
人間というのは年を重ねるごとに鷹揚になり、優しくなれるものなのか。  
母の優しい人間性が、走馬灯のように頭をよぎっていく。

心残りは、息子として母に対する親孝行ができなかったことだ。
100歳まで生きて欲しかったと思いながらも、
母本人はここで終焉を迎えてよかった、と思っていただろうか。
これまでの人生に、悔いを残してしまったと思っていただろうか。
今は安らかに天国で眠ってほしい。

木漏れ日の差し込む薄ら寒い本堂に響き渡る導師の読経を聞きながら、
92年間生きてきた母の人生を、省みていた。
目に薄っすらと涙を浮かべた顔の辺りを、香の匂いがよぎっていく。
親族の焼香が始まった。
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