簡略化した野辺送りでまたも失敗

葬儀繰り出しの呼び出しは省略するはずだったのに

梅雨の合間に晴れ渡ったその日は、亡母を見送るにふさわしくすがすがしい1日だった。
朝からその日のスケジュールに念を押す。慌しい時間が過ぎていく。
喪主の挨拶内容、初七日の席次、葬具を菩提寺まで持ち込む葬儀繰り出しの確認。
祭壇の母に線香を上げ、今日の送り出しが無事済むように手を合わせた。

やがて兄弟、親戚、近隣の方々が三々五々集まってくる。
午前11時、菩提寺に行く前に導師による最後の読経がおこなわれた。これをこの地方では先葬(さきそう)という。 3人の僧侶による先葬は、木魚と鈴によって厳粛にすすめられた。
自宅で畳が敷かれた二間つづきの急造式場では、30人くらいの兄弟親戚が着座し、
重々しく回し焼香で供養。

15分くらいの先葬も無事すみ、導師は一足先に菩提寺に帰って我々を待つことになっている。
いよいよ葬儀繰り出しだ。
遺影写真、位牌、遺骨は勿論、燭台、香炉、枕飯、御鍬、死華などの葬具を、それぞれ親戚兄弟が
持ち、菩提寺まで持ち運ぶ。昔からの風習で、その担当者を、集まってくれたみんなの前で名乗りあげる。
しかし最近ではそれも簡略化し、その場に居合わせた人に頼むようになってるそうだ。
その昔は供野火といわれる先導者を先頭に、のぼりを持った旗印や台花、台菓子、台線香がつづき、棺おけを積んだ荷車を引いて、葬送の行列が菩提寺まで行進していたそうだ。女性は魔除けのため、喪服の背中から白い小さな生地を垂らし、行列に加わる。これらのことを野辺の送りといっていた。
いまでも地方によっては、このしきたりが残っているところもあるようだ。

昨夜の打ち合わせ通り、その役割だけはめぼしを付けておき、呼び出しは簡略化しようと意見の一致をみていた。
葬具はすべて葬儀屋さんが準備し、自宅の前の軒下に集まった参列者に一つひとつ手渡す。その役割を次兄が受け持った。ところが大勢の人を前に緊張したのか昨夜の決め事を忘れ、次兄は繰り出し帳をもとに、一人ひとりの名前を読み上げてしまった。繰り出し帳を持った手元は、小刻みに震えている。
「あらら、違う違う。読み上げなくていいんだよ」
しかし、耳の遠い次兄は私の進言も耳に入らず、どもりながらもどんどん読み上げていく。
語尾を跳ね上げながら、時にはかすれ声になり、 
「野団子 鈴木○○殿」
「七本仏 伊藤○○殿」
事情も知らず、読み上げられた人は前に出て、葬具を受け取る。
「あ~あ、母さんまたやってしまったよ。許して」 
緊張感も消えうせ、背中からは冷たい雫が流れ落ちてきた。

この繰り出しには、お使い(いわゆる招待した親戚縁者)を受けた方全員が参列し、何かの係りにつくことになっている。参列者が呼ばれなかったということは、本来ないことなのだ。
これが後になって、問題になるとは。

母のお逮夜は念仏で送られた

導師、お念仏、会葬者のおもてなしに奔走

亡母のお逮夜、いわゆる通夜が始まった。
午後2時ごろから7時ごろまでの長時間にわたる。
親戚や近所をはじめ、勤めてる方などがポツリポツリとお参りに来る。
東京近県なら午後6時か、7時ごろ始まり、約1時間位で終わる。
地元のしきたりなのだろうか、ロングランの通夜は遺族に疲労といらだたしささえ感じる。

3時ごろ菩提寺の住職が2人の伴僧を従え、通夜の読経をあげていただいた。
遺骨となった母の姿は、祭壇の中央に安置され、住職のお経で旅立っていく。
親戚に見守られ、残った遺族をよろしくと願いつつ、後ろ髪をひかれているようだ。

曹洞宗の読経によって引導を受けた母を勇気付けるように、
住職の読経の後、5人の年配の主婦によってお念仏の唱和が始まった。
生前元気だった頃の仲間で、母にお念仏の唱和を教えられた人もいる。
お念仏独特の節回し、鈴や鉦を打つリズム。自分にはよくわからないが、
「うまかったがす~」
口々に褒めてくれる。わからないながらも、嬉しいものだ。
約30分、熱唱した後、彼女達をお膳でもてなす。
「ありがとうございました。母も心やすらいでいることと思います」

彼女達の多くは一家の主婦で、町会ごとにグループを組み、
不幸があった家に行って念仏供養をしているそうだ。
念仏は菩提寺の住職に習い、先輩に叩き込まれる。
無論、ボランティアだろうが、どこの喪家でも謝礼は用意している。

やがて空も薄暗く、お逮夜も終わりを迎えた。
集まっていただいた親戚皆様を、お斎でおもてなす。
いわゆる通夜振る舞いであり、供養の食事だ。
といっても肉類生物は慎まなければならないしきたりから、
献立は裏方を手伝っていただく隣近所の主婦手作りで、
野菜類の質素なものが中心になる。
ケータリングサービスを利用すれば簡単で、結局安上がりになるのだが。

表舞台と違って、喪家の料理を預かる裏舞台も大変なようだ。
料理長といえる年配の主婦が采配し、その日の献立を作り上げていく。
通夜料理にはこの野菜は使えない、味はどうの、何が足りないと、
他の主婦から反感を持たれながらも、女同志の修羅場をかいくぐる。
その気苦労が手にとるようにわかる気もする。

ともあれ、この日のお逮夜は無事滞りなく終了することができた。
ご会葬いただいた皆様、お手伝いいただいた皆様に謝辞を述べ見送った後は、
シーンと静まり返った部屋で、呆然としてしまった。 
「母さん、こんなお逮夜だったけど、後のことは心配しないで!」
しかし、このとき自分の気持ちはすでに明日の葬儀告別式に移っていた。
 
これがまたハプニングつづきの異例の式となってしまうとは、
この時点ではまだ予想もできなかった。

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